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8. 精神及び神経系

診断上の一般注意

  1. 精神及び神経系の診断は、全検査基準のうち主として重要な精神面に該当し、既往歴、遺伝歴、生活歴、日常行動についての客観的資料をできるだけ集め、検討されなければならない。特に慎重な検討を要する事例については、これらの客観的資料の把握が不可欠である。
  2. 既往歴では、出生時の状況、生後の発育状況、高熱疾患、交通事故、頭部外傷、ひきつけや失神発作及び不眠等に特に注意する。
  3. 遺伝歴では、近親者における自殺、問題行動、精神病、神経症、てんかん、片頭痛及び神経疾患等の有無に注意する。
  4. 本人との面接においては、表情、態度及び言動を注意深く観察する。
  5. 性格傾向としては、過敏傾向、強迫傾向、自己顕示傾向、気分易変、爆発傾向、意志薄弱及び無力傾向の判定のほか、家族、学校及び社会における適応性についての客観的資料に特に注意する。
  6. 面接の際の参考資料として、必要に応じて各種の心理テストを利用する。
  7. 脳の器質性障害若しくは機能性障害又はそれらの疑いがある場合は、必要に応じて神経学的検査、脳波、画像検査等の検査又は各種の心理テストを実施する。
  8. 不適合状態の疾患名に付した括弧内の番号は、国際疾病分類(InternationalClassificationofDiseases10thEdition,ICD1O)の分類番号であり、各疾患の診断基準は同分類の手引きに準拠する。なお、診断カテゴリーのリストは本マニュアルの付録2として収録してある。
  9. 脳波検査は、初回の航空身体検査時、航空事故又は他の事故等により頭部に衝撃を受けた後の最初の航空身体検査時及びその他診断上必要と認められた場合に実施する(脳波計は、JIS規格のものを使用する。)。なお、初回の脳波記録は、以後比較参照の必要が生じることもあるため保存されることが望ましい。

単極及び双極誘導による安静記録並びに過呼吸負荷、光刺激及び睡眠記録を行うこと。
なお、詳細については本マニュアルの付録1−1として収録してある。

8-1 精神病及び神経症等

  1. 身体検査基準
    重大な精神障害又はこれらの既往歴がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    症状性を含む器質性精神障害(F0)又はその既往歴のあるもの
    2−2
    統合失調症、統合失調型障害及び妄想性障害(F2)又はその既往歴のあるもの
    2−3
    気分(感情)障害(F3)又はその既往歴のあるもの
    2−4
    神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(F4)又はその既往歴のあるもの
    2−5
    生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(F5)又はその既往歴のあるもの
  3. 検査方法及び検査上の注意
    「診察上の一般注意」参照のこと
  4. 評価上の注意
    上記2−1から2−5に掲げる障害の既往歴のある場合又はその疑いがある場合は不適合とする。
  5. 備考
    5−1
    上記2−3、2−4及び2−5の疾患について、身体所見及び精神所見が回復したと判断された者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合は、治療経過及び現症を含む臨床経過、心理テストの結果等を付して申請すること。
    5−2
    上記5−1の者のうち、十分な観察期間を経て、航空業務に支障を来すおそれがある状態に進行しないと認められるものは、国土交通大臣の指示により、以後指定医で適合とすることを許可される。

8-2 パーソナリティ(人格)障害及び行動障害

  1. 身体検査基準
    航空業務に支障を来すおそれのあるパーソナリティ障害若しくは行動障害又はこれらの既往歴がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    成人のパーソナリティ(人格)及び行動の障害(F6)又はその既往歴のあるもの
    2−2
    小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(F9)又はその既往歴のあるもの
  3. 検査方法及び検査上の注意
    3−1
    「診断上の一般注意」参照のこと。
    3−2
    自殺未遂、自傷行為、家出、放浪、非行又は犯罪行為等の問題行動があった場合は、その動機や発生状況について慎重に検討を行うこと。
  4. 評価上の注意
    上記3−2の問題行動があった場合であって、将来類似の行動を生ずるおそれのあるときは、不適合とする。
  5. 備考

8-3 薬物依存及びアルコール依存

  1. 身体検査基準
    薬物依存若しくはアルコール依存又はこれらの既往歴がないこと。
  2. 不適合状態
    精神作用物質使用による精神及び行動の障害(F1)又はその既往歴のあるもの
  3. 検査方法及び検査上の注意
  4. 評価上の注意
    薬物は麻薬、鎮静薬、睡眠薬、幻覚剤、揮発性溶剤、その他の精神作用物質を指す。
  5. 備考
    5−1
    アルコール依存の既往歴があり経過良好な者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合は、十分な経過観察を行った後、治療内容を含む臨床経過についての詳細を付して申請すること。
    5−2
    上記5-1の者のうち、十分な観察期間を経て、航空業務に支障を来すおそれがある状態に進行しないと認められるものは、国土交通大臣の指示により、以後指定医で適合とすることを許可される。

8-4 てんかん

  1. 身体検査基準
    てんかん又はその既往歴がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    てんかん(全般発作又は部分発作)又はその既往歴のあるもの
    2−2
    脳波記録上、棘(spike)、棘徐波、明らかな局在性徐波又は高度の基礎律動異常を呈するもの
  3. 検査方法及び検査上の注意
    3−1
    問診により、てんかんの既往歴の有無や、過去に2−2の脳波異常を指摘されたことの有無について確認すること。
    3−2
    必要に応じて、脳波検査、画像検査、神経学的検査、自律神経系検査、循環器系検査、内分泌系検査等を検討するとともに、精神神経科医、神経内科医、循環器専門医又は内分泌専門医の診断により確認すること。
  4. 評価上の注意
    上記2−2の棘(spike)について、14Hz又は6Hzの陽性棘は、適合とする。
  5. 備考

8-5 意識障害等

  1. 身体検査基準
    意識障害若しくはけいれん発作又はこれらの既往歴がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    意識障害又はその既往歴のあるもの
    2−2
    けいれん発作又はその既往歴のあるもの
  3. 検査方法及び検査上の注意
    3−1
    問診により、意識障害及びけいれん発作の既往歴について確認すること。
    3−2
    必要に応じて、脳波検査、画像検査、神経学的検査、自律神経系検査、循環器系検査、内分泌系検査等を検討するとともに、精神神経科医、神経内科医、循環器専門医又は内分泌専門医の診断により確認すること。
  4. 評価上の注意
    4−1
    小児期において、一過性のひきつけ又は意識消失発作等の既往歴がある場合は、慎重に判断すること。
    4−2
    5歳未満の熱性けいれんの既往歴がある場合は、その後のけいれん発作について詳細に確認すること。5歳未満における発作発生後、現在に至るまで発作が認められず、脳波に異常所見が認められない場合は、適合とする。
    4−3
    外傷後の意識障害のうち、脳震盪については、3ヶ月の観察期間を経て、高次機能に異常を認めず、航空業務に支障を来すおそれのある後遺症のないものは適合とする。
  5. 備考
    5−1
    上記2.の既往歴がある者で、経過良好な者が国土交通大臣の判定を受けようとする場合、原疾患についての記載及び現症を含む臨床経過、必要であれば、安静時心電図検査、ホルター心電図検査、心エコー検査又はヘッドアップティルト検査等による循環器疾患(神経調節性失神を含む。)の検討、血液検査等による内分泌疾患(低血糖発作を含む。)の検討、神経内科学的検査、脳波検査又は頭部MRI検査等による脳神経疾患(てんかんを含む。)の検討及び使用医薬品等の影響等の検討を行い、原因について十分検討した結果等を付して申請すること。
    5−2
    外傷後又は術後で、抗けいれん薬の内服の既往がある者が、服薬中止後2年以上の観察期間を経て、経過良好であり国土交通大臣の判定を受けようとする場合、外傷又は手術についての詳細な記録及び治療内容を含む臨床経過、脳波検査、画像検査等を付して申請すること。
    5−3
    上記5−1及び5−2の者のうち、十分な観察期間を経て経過良好であって、病態等が進行しないと認められるものについては、国土交通大臣の指示により、以後指定医で適合とすることを許可される。

8-6 頭部外傷

  1. 身体検査基準
    航空業務に支障を来すおそれのある頭部外傷の既往歴又は頭部外傷後遺症がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    画像上の脳挫傷(頭蓋内出血を含む。)又は頭蓋骨折の既往歴のあるもの
    2−2
    後遺症として、外傷後てんかん、脳神経障害、運動障害、知能障害、記憶障害、又はパーソナリティ(人格)障害が認められるもの
    2−3
    外傷に伴う意識障害の既往歴のあるもの
  3. 検査方法及び検査上の注意
    3−1
    受傷時と治療に関する医療記録について慎重に検討を行うこと。
    3−2
    後遺症については、必要に応じて脳神経外科医、神経内科医又は精神神経科医の診断により確認すること。
    3−3
    頭部外傷後の意識障害については、8.精神及び神経科8−5意識障害等を参照のこと。
  4. 評価上の注意
    頭蓋骨折の既往歴のうち、脳挫傷を伴わず、航空業務に支障を来すおそれのある後遺症のないものは、適合とする。
  5. 備考
    5−1
    上記2.について、経過良好である者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合は、臨床経過、神経学的所見、画像検査、脳波検査等を付して申請すること。
    5−2
    上記5−1の者のうち、十分な経過観察期間を経て経過良好であって、病態等が進行しないと認められるものについては、国土交通大臣の指示により、以後指定医で適合とすることを許可される。
    5−3
    頭部外傷後で抗けいれん薬を内服した既往歴のある場合については、8.精神及び神経系8−5意識障害等を参照すること。

8-7 中枢神経系統の障害

  1. 身体検査基準
    中枢神経の重大な障害又はこれらの既往歴がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    脳炎、髄膜炎等の炎症性疾患又はこれらの既往歴のあるもの
    2−2
    脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血、脳動脈瘤等の脳・脊髄血管障害又はこれらの既往歴のあるもの
    2−3
    代謝・中毒性疾患又はこれらの既往歴のあるもの
    2−4
    腫瘍又はその既往歴若しくは疑いがあるもの
    2−5
    変性疾患又はその既往歴のあるもの
    2−6
    脱随疾患又はその既往歴のあるもの
    2−7
    中枢神経系の手術歴のあるもの
    2−8
    航空業務に支障を来すおそれのある片頭痛又は慢性頭痛
    2−9
    プリオン病
  3. 検査方法及び検査上の注意
    上記2.の不適合状態が疑われる場合は、注意深く診察し、必要であれば画像検査等を行って十分に検討を行うこと。
  4. 評価上の注意
    4−1
    腫瘍又はその既往歴若しくは疑いがあるものについては、1.一般1−3腫瘍を参照のこと。
    4−2
    髄膜炎の既往歴のあるもので、経過中に意識障害や麻痺等、脳実質障害の症状がなく、脳波所見に異常がなく神経症状等の後遺症がないことが確認された場合は、適合とする。
    4−3
    下垂体部腫瘍については、1.一般1−5内分泌及び代謝疾患も参照のこと。
  5. 備考
    5−1
    脳炎及び髄膜炎等の炎症性疾患の既往歴があり、経過良好な者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合、頭部の画像検査結果、脳波及びその所見、現在の神経学的所見を含む臨床経過の詳細等を付して申請すること。
    5−2
    脳梗塞又は一過性脳虚血発作の既往歴があり、航空業務に支障を来すおそれのある後遺症がなく、経過良好な者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合、頭部MRI等の画像検査、脳波及びその所見、現在の神経学的所見及び治療内容を含む臨床経過、心血管系の評価、危険因子(喫煙、高脂血症、肥満、高血圧、糖尿病等)についての検討等を付して申請すること。無症候性脳梗塞、無症候性脳動脈硬化症についてもこれに準じる。また、無症候性脳梗塞の診断は、無症候性脳血管障害の診断基準(付録1−3)を参照のこと。
    5−3
    脳出血やクモ膜下出血等頭蓋内出血の既往があり、航空業務に支障を来すおそれのある後遺症がなく、経過良好な者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合、画像検査結果、脳波及びその所見、原因、現在の神経学的所見及び治療内容を含む臨床経過、危険因子についての検討等を付して申請すること。
    5−4
    中枢神経系の手術後、航空業務に支障を来すおそれのある後遺症がなく、経過良好な者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合、原疾患についての記載、現在の神経学的所見及び治療内容を含む臨床経過、手術録、術前及び術後の画像検査、脳波及びその所見等を付して申請すること。血管内治療及びガンマナイフ等による治療後もこれに準じる。
    5−5
    未破裂動脈瘤で、破裂の危険性が極めて低く治療の必要がなく、神経学的所見に異常を認めない者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合、頭部の画像検査結果(動脈瘤の径及び部位の評価)、脳波及びその所見、現在の神経学的所見及び血圧の推移を含む臨床経過の詳細、治療についての脳神経外科医の見解等を付して申請すること。
    5−6
    頭痛の治療中で経過良好な者が、国土交通大臣の判定を受けようとする場合、脳波及びその所見、画像検査結果、治療内容を含む臨床経過等を付して申請すること。
    5−7
    上記5−1から5−6の者のうち、十分な観察期間を経て経過良好であって、病態等が進行しないと認められるものについては、国土交通大臣の指示により、以後指定医で適合とすることを許可される。

8-8 末梢神経系統及び自律神経系統の障害

  1. 身体検査基準
    航空業務に支障を来すおそれのある末梢神経又は自律神経の障害がないこと。
  2. 不適合状態
    2−1
    航空業務に支障を来すおそれのある末梢神経障害
    2−2
    航空業務に支障を来すおそれのある自律神経障害
    2−3
    航空業務に支障を来すおそれのある発作性又は再発性の神経筋疾患
  3. 検査方法及び検査上の注意
  4. 評価上の注意
    上記2.について、その症状が軽く、航空業務に支障を来すおそれがないと認められる場合は、適合とする。
  5. 備考

付録1-1 脳波測定方法

脳波測定基準
脳波計:18チャンネル脳波計(14チャンネルでも可)
電極配置:10-20法(次頁のモンタージュ参照)
TC:0.3(ただし、発汗などにより基線の動揺が著しい場合は0.1とし、その旨を明記する。)
HF:120(緊張などによりEMGの多い場合は60とし、その旨を明記する。)
キャリブレーション:5mm/50μV
紙送り速度:3cm/sec
例えば、以下のようなMP,BPモンタージュで約20分(1)安静、開閉眼  
睡眠(Stage2)まで
(2)光刺激(3〜4分)
3,6,8,10,12,15,18,20,21,24,30f/s
(3)過呼吸(4分、過呼吸後、最低3分記録)1分間20〜25回の深い換気を行わせること。

18チャンネル脳波計(脳波16ch)
18チャンネル脳波計(脳波16ch)
14チャンネル脳波計(脳波12ch)のときは、()は省略

モンタージュ例(必ずしもこのとおりでなくとも良い)
MP:単極導出,同側耳朶(A1,A2)を基準電極とする
MP(AV):平均電位基準電極(AV)を基準電極とする
BP:双極導出
モンタージュ例の表

付録1-3 無症候性脳血管障害の画像診断基

「無症候性脳血管障害」とは、次の条件を満たすものをいう。
1)血管性の脳実質病巣による神経症候(腱反射の左右差、脳血管性痴呆を含む)がないこと。
2)一過性脳虚血発作を含む脳卒中がないこと。
3)画像診断上(CT、MRIなど)で血管性の脳実質病変(梗塞巣、出血巣など)の存在が確認されること。

  1. 脳梗塞
    [MRI]
    1)梗塞巣は原則として径が3mmを超える不整形不均質の病変でT2強調画像で高信号域で、T1強調画像で低信号域のものとする。
    2)のう胞化した梗塞巣では、プロトン密度強調画像、FLAIR法で病変中心部が低信号(髄液と同等)で、周囲に高信号域を伴うことがある。
    3)血管周囲腔の拡大の場合は、一般にT2強調画像が整形で均質な高信号域であり、穿通枝動脈、髄質動静脈の走行に沿い、大脳基底核の下1/3にしばしばみられ、左右対称性のことが多い。径が3mmを超えることは少ない。プロトン密度強調像、FLAIR法では全体が髄液と同等の低信号域となる。
    [CT]
    上記基準は原則としてCT所見にも適応できる(この場合MRI-T2強調画像の高信号域は低信号域となる)が、慢性期脳出血巣との鑑別が困難なことが多い。
  2. 出血巣
    [MRI]
    1)病期によって所見が異なるが、梗塞巣との鑑別には急性期はCTがすぐれ、慢性期はMRIがすぐれる。
    2)発症後数日間は、T1強調画像で高信号の枠で囲まれた、等もしくは軽度の低信号域、T2強調画像で中心部低信号で周囲がやや高信号を呈する。
    3)亜急性期では、病巣全体がいずれの場合も高信号域となるが、中心部は等信号域となることもある。
    4)慢性期では不整形の病変で、中心部がT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号となるが、T2強調画像では、周囲にhemosiderinによる低信号のring状陰影がみられる。
    [CT]
    1)急性期には限局した高吸収息として描出される。
    2)血腫吸収後の慢性期には、不整形の低吸収域となり、梗塞巣との鑑別が、困難なことが多い。
  3. びまん性白質病変(Leukoaraiosis)
    [MRI]
    1)側脳室周囲に認められる、いわゆる”cap”ないし”rim”状のT2強調画像の高信号域は血管性の病的変化とは認めない。
    2)側脳室周囲から深部白質に進展するT2強調画像の不規則な高信号域のうち、その中に斑状の著しい高信号域を認める場合や、病的分布が明らかに非対称である場合は血管性病変の可能性が否定できない。
    [CT]
    上記基準は原則としてCT所見にも適応できる(この場合はMRI-T2強調画像の高信号域は低吸収域となる)。